2018.03.17

【GAKURINSHA TOPICS】
2018年教育の行き先 2018年度の中学入試を総括

 

 関西圏では 1 月 13 日の統一解禁日を皮切りに、2018 年度の中学入試が行われました。今年度も午後入試を含む短期決戦型の日程となり、15 日までの三日間に主要な入試日程が集中しました。
関西圏(二府四県)の全日程の総応募者数は昨年度より 1.02% 増加して 56,438 人、統一入試日の 1 月 13日午前のみの応募者数は昨年度より 1.28% 減少して17,190 人となりました。応募率は 9.79% となり(総応募者数を二府四県の公立小学校在籍者数で割って算出)、四年連続で上昇していますが、受験者数の実態に近い統一入試日の応募者数は、少子化に伴い三年連続で減少しています。
 今春の入試で注目したいのは、大学入試改革を見据えた動向です。大学までの進路が保証されている大学の付属校、グローバル教育や ICT 教育などを積極的に取り入れ教育改革を推進している学校、そして大学合格実績の堅調な学校に人気が集まりました。関関同立の主要系列校では、立命館系列校と同志社女子中学校を除き、関西大学第一中学校、関西学院中等部、啓明学院中学校、同志社香里中学校、同志社中学校などの学校で応募者数が軒並み増加しています。また、昨年共学化して二年目となる高槻中学校では 1,858 人(昨年比 312 人増、前期日程は 89 人増の 573 人)の応募となりました。スーパーサイエンスハイスクールとスーパーグローバルハイスクールとしての取り組みに加え、大阪医科大学・大阪薬科大学との法人合併による高大連携企画への期待、新キャンパスの整備など、積極的な学校改革による人気が募集人数の増加につながったものと考えられます。一方、最難関校においては神戸女学院中等部と西大和学園中学校が微減となりましたが、灘中学校、甲陽学院中学校、大阪星光学院中学校、洛南高等学校附属中学校、東大寺学園中学校、四天王寺中学校などの学校で応募者数が増加し、最難関校の人気は根強いと言えます。
 また、昨年も話題を呼んだ適性検査型入試は、新たに滝川中学校や上宮学園中学校が参入し、約 20 校の実施となりました。公立中高一貫校との併願を見込んだことや入試会場・入試日程などにより、親和中学校、滝川第二中学校、近大附属和歌山中学校では多くの応募があった反面、事前の告知不足や、受験生および家庭に十分理解が得られていなかったために、想定した受験者数を集められなかった学校もありました。
 公立中高一貫校では、京都府立洛北高等学校附属中学校(応募倍率 3.8 倍)、京都市立西京高等学校附属中学校(応募倍率 4.6 倍)、神戸大学附属中等教育学校(実質倍率男子 5.7 倍、女子 8.1 倍)の人気が依然と続いています。
 首都圏では 2 月 1 日から、東京都・神奈川県で主要中学校の入試が行われました。
 首都圏(一都三県)の 2 月 1 日午前の受験者数は、昨年度より 0.7% 増加して 37,864 人、応募率は 13.7%(総応募者数を一都三県の公立小学校在籍者数で割って算出)となりました。しかし、1 月 10 日が解禁日となった埼玉県、1 月 20 日が解禁日となった千葉県の私立中学校だけを受験した児童や、公立中高一貫校だけを受検した児童もいるため、それらを含めると受験率はさらに高いものになります。1 月は学校数に対して入試期間が長いため、日程や通学時間などの条件が合えば複数の学校を受験することができ、一人あたりの出願校数は関西圏より多くなっています。
 今春の入試で注目したいのは、大学附属校・系列校の応募者数の増加と学校改革を積極的に推進している学校の人気です。早稲田大学と慶應義塾大学の附属校・系列校は、ともに応募者数が増加しました。2015 年、文部科学省は首都圏に学生が集中している状況を打開するため、募集定員を上回る私大への補助金をカットする方針を打ち出しました。2016 年から段階的に定員超過数が厳格化されてきており、特に難関私立大学の合格者数はすでに大幅に削減されています。この影響を受け、大学受験を避けて附属中から進学する動きが加速し、その結果、難関私学附属校・系列校の倍率が上昇しています。一方、単に系列大学に入学できるという理由だけではなく、スーパーサイエンスハイスクールやスーパーグローバルハイスクールに指定されている学校も多いこと、多くの学校で国公立大学への進路変更に対応していること、高大連携のプログラムなども人気の要因だと考えられます。また、今春の入試で人気を集めた渋谷教育学園幕張中学校、渋谷教育学園渋谷中学校、広尾学園などは、都内でも数少ない共学校であることに加えグローバル教育への期待もあり、応募者数の増加につながったものと考えられます。
 公立中高一貫校も依然人気が高く、神奈川県では県立 相 模 原 中 等 教 育 学 校(応 募 倍 率 男 子 7.5%、女 子8.5%)、東京都では都立小石川中等教育学校(応募倍率男子 6.9%、女子 6.1%)が高い人気を得ています。
 出題傾向は、関西圏・首都圏ともに全体的には大きな変化は見られず、過年度を踏襲したうえで、一部新傾向問題を織り交ぜて出題されました。算数では、「数に関する問題」「立体図形」の出題がやや増加傾向にあります。最難関校では、単なる知識やセンスではなく様々な角度から考えることが求められる出題も見られた反面、難関校では典型題の出題が依然多くなっています。国語では、流行の作家の作品が今年も多く出題されました。説明文では、岡田美智男著「〈弱いロボット〉の思想」、池谷裕二著「できない脳ほど自信過剰」など、ロボットや脳科学をテーマにした文章が複数校で見受けられました。その他、自然科学や哲学をテーマとした文章も出題されています。物語文では、近年よく出題されている、重松清、辻村美月、瀬尾まいこ、森絵都などの作品が今春も引き続き数多くの学校で出題されました。出題形式は各校とも過年度の出題形式を踏襲したものとなりました。理科では、新学習指導要領が示されたことで、具体的な記載のあった内容に出題が集中しました。物理分野では、「てこ」「浮力」「電気回路」の出題が増加しました。また、「音」と「圧力」の単元が追加され、それらを題材とした出題も見られました。化学分野では、「気体の性質」「溶解度」の出題が増加しました。生物分野では、「人体」単元から、地学分野では、「気象」単元からの出題が増加しました。難関校では典型題の出題が続きましたが、最難関校ではさらに掘り下げた、実験に伴う一連の作業の意図や操作の手順などを、作図や記述で求めるといった出題も見受けられ、一部最難関校では思考実験型の出題も見られました。社会では、例年と変わらず基本的な知識を問う問題がベースとなります。その上で、学校のタイプにより、処理力を求める問題と差がつく問題(漢字指定や記述式、時事問題の対策や思考力問題など)のバランスによって各学校の特色が出ています。特に差がつく問題では、単なる知識ではなく関連する内容を説明できるようにすることや、世の中の出来事に関心を持ち、自分なりの考えを持つことなどが重要になっています。(文/学林舎編集部)