【GAKURINSHA TOPICS】
2018年教育の行き先 教科書のデジタル化の状況
ICT 環境が整備された現代社会において、日常生活や仕事でデジタル機器を利用することは必要不可欠となりました。小中学校でもコンピュータを使った授業が行われています。現在、教科書は紙の本として提供されることが前提ですが、授業の一部として映像を見たり、音楽を聴いたりと、紙以外の補助教材を使うことは、これまでにもありました。文部科学省は 2020年の学習指導要領改訂の際に、デジタル教科書の本格導入を目指しています。そうすると近い将来、紙の教科書はなくなり、デジタル教科書が全面的に使われるようになるのでしょうか。文部科学省が公表した『学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果』では、デジタル教科書をすでに「整備している」と答えた学校は、小学校で 52.1%、中学校で 58.2%、高等学校で 12.5%でした。これは、児童生徒自身が利用するデジタル教科書だけではなく、電子黒板等のデジタル教材も含まれています。では、デジタル教科書などの教材を利用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
デジタル教科書は、児童生徒それぞれが使うものと教師が使うものに分けられます。前者はタブレット端末など児童生徒個人が利用できるもの、後者は電子黒板やプロジェクタなどで表示し画面等を共有するものです。紙の教科書にも、写真やグラフをはじめ、たくさんの情報が掲載されていますが、デジタル教科書では、これらに加えて映像や音などの情報を扱うことができます。自動車の生産の様子を映像で紹介すること(社会)や単語の発音を確認すること(英語)などは、従来の紙の教科書では扱えなかった情報です。現在のの教科書でも、副教材として DVD や CD が使われていますが、教科書の中に組み込まれたものではないので、あくまで別の教材です。つまり、デジタル教科書における映像や音などは、紙の教科書の代替となるものではなく、補助教材としての位置づけと言えます。また、写真や教科書の誌面を電子黒板に拡大して表示したり、教科書に直接書き込む様子を画面に映したりすることもできます。紙の教科書と同じ誌面がデジタルデータとして販売されている教科書もあります。
デジタル教科書導入までの問題点もたくさんあります。まず、すべては ICT 環境が整っていることを前提としています。現在、紙の教科書は原則無償提供されていますが、デジタル教科書を利用するために必要なデジタル機器は、個人や自治体が費用を負担しなければなりません。しかし、電子黒板や児童生徒用のタブレット端末などは、まだ十分に普及しているとは言えません。タブレット端末の購入費用を個人に負担するように求める自治体もあれば、独自に ICT 環境の整備を進めている自治体もあります。そのほか、健康面についての議論も行われています。デジタル教科書の多くはタブレット端末や電子黒板で提供されるため、児童生徒は授業時間中にディスプレイを見続けることになります。現代人の多くは普段から長時間ディスプレイを見続けています。デジタル教科書が使われるようになると、家ではテレビやゲーム、スマートフォンなどのディスプレイを見て、さらに学校でもデジタル教科書を利用するためにディスプレイを見ることになります。これが児童生徒にどれほどの影響を与えるのかについては、『「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ』の中で「一定の期間を経た後に改めて検討を行うことが適当」とされており、今後も継続的な研究が必要です。また、タブレット端末で情報を検索する際には、フィルタリングや接続管理等のセキュリティ面での整備も必要です。端末の故障などのトラブルに対応できる体制も整えておく必要があります。
デジタル教科書が導入されることで、これまでの学習内容が大きく変わるということはありません。学びの主役は児童生徒自身であり、学びを通して豊かな知識を身につけていくという基本的な教育姿勢に変わりはありません。デジタル教科書は、よりよい環境でより効率的に児童生徒が主体性を持って学び続けることを手助けするツールなのです。(文/学林舎編集部)
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