2018年教育の行き先
指導について考える
2018年のできごとを代表する話題の一つとして、アメリカンフットボール、レスリング、ボクシング、体操など、スポーツ界のパワハラ問題が挙げられます。いずれの問題でも、スポーツ選手が、指導者や協会などの大きな権力から抑圧されていた体験を公表し、自らの主張を訴えている姿が報道されました。そのような選手たちの姿を見ると、実際にパワハラがあったかどうかに関わらず、問題として取り上げられた時点で、優秀な選手たちの未来を阻害していると感じます。これはスポーツ界だけの問題ではありません。権力差の生まれやすい「指導者」と「学び手」の関係を主軸とする教育業界においても、今後の指導の在り方について考えていかなければならないのではないでしょうか。
そもそもパワハラとは何でしょうか。パワハラは,「パワーハラスメント」の略称です。厚生労働省は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」としています。職場でのパワハラの定義ですが、教育現場においてもあてはまります。子どもが中心である教育現場においては、大人である教師の存在は圧倒的に優位な立場にあります。たとえば、けんかをした子どもに対し、教師が「廊下に立っていなさい」と命じ、子どもが納得できないまま廊下に立たされ、精神的に苦痛を感じた場合、その教師の行為はパワハラであったといえるでしょう。昔の学園ドラマや漫画の中ではよく描かれていたようなシーンですが、近年の社会においてはこのような事象が問題視されています。昨今のパワハラ問題で取り上げられる指導者側の主張を聞くと、社会の変化に追いついておらず、昔ながらの指導法を続けているがために、学び手である選手と確執が生じているケースが多々あるように感じます。社会は常に変化し続けており、指導を受ける子どもを取り巻く環境も変化し続けているのです。
教育業界で,よく用いられている言葉に「個別指導」があります。近年では,学校や塾でも一般的になっていがあります。近年では、学校や塾でも一般的になっています。文部科学省でも「個に応じた指導」という言葉で学習指導要領に取り入れられています。少子化が進む昨今、一人一人に対応した指導をすることで、個々のよさを伸ばそうという指導方法です。30人の子どもがいれば、30通りの指導方法があります。教師たちはこれまで以上に一人一人の子どもと向き合い、子どもにあった指導方法を考えることが求められているのです。しかし、この現状にすべての教師が対応できているわけではありません。「教員の中には子どもに関する理解が不足していたり、教職に対する情熱や使命感が低下していたりする者が少なからずおり、指導力不足の教員は年々増加している」と文部科学省も指摘しています。子どもへの理解が不足している教師が、個別指導を受けることが当たり前となった子どもを指導すると、双方の思いに食い違いが生じてしまってもおかしくはないでしょう。
子どもが教師の言葉をどのように受け止めるかは、子どもと教師との信頼関係が重要になってきます。多少厳しい指導をしても、「先生は自分のために厳しいことを言ってくれているんだ」ということを子どもが理解できる関係にあれば、パワハラ問題は生じないでしょう。一方で、信頼関係ができていないと、厳しい指導をしたところで子どもの心には響かず、「厳しい指導をされた」という嫌な気持ちを与えるだけです。このような信頼関係は、親と子のしつけにもあてはまります。子どもが社会に出た時のことを考えると、親であれ教師であれ、時には厳しい指導も必要になるでしょう。子どもの将来を考え、大人が責任を持って子どもを成長させるためには、信頼関係の構築が何よりも大切になります。昨今のパワハラ問題においても、信頼関係が成り立っていれば、ここまでの問題に発展しなかったのではないでしょうか。
子どもは大人である教師や親の言葉を、大人が思っている以上によく聞き、理解しています。教師が何気なく放った一言が、子どもの心を深く傷つける可能性も十分にあります。教師はこのことを理解し、信頼関係に基づいた指導をしてほしいと思います。大人が子どもの未来を奪う真似だけは、絶対にしてはいけません。(文/学林舎編集部)
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