2019.02.15

2019年教育の行き先 進路を切り拓く -返済不要の奨学金に関して

 「奨学金破産」という言葉をご存じでしょうか。大学生のときに借りた奨学金を返済できず、自己破産してしまうことをいいます。こういった「奨学金破産」に至る人が、近年急増しています。
 そもそも奨学金制度は、家庭の収入が少なく進学することが難しい学生などを、経済的に援助するための制度です。国の行政機関である「独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)(https://www.jasso.go.jp/)」が設けているもののほか、それぞれの都道府県や市町村が設けているもの、大学が設けているもの、企業や個人が設けているものなど、さまざまな奨学金制度がつくられています。「日本学生支援機構(JASSO)」を例に用いて説明すると、制度を利用している学生は、奨学金を受ける期間や金額を選択し、月に3万~15万円程度の援助を受けます。制度を利用するには審査が必要になりますが、「日本学生支援機構(JASSO)」の場合、ほかの機関に比べて審査基準が低いと言われており、申請したほとんどの人は奨学金を受けることができます。
 奨学金制度は、返済義務のある貸与型と、返済義務のない給付型の2種類に分けられます。多くの学生が利用しているのは、のちに返済が必要な貸与型の奨学金制度です。これは、援助期間が終わると、援助を受けた分の奨学金に利子を加えた金額を返さなければなりません。そのため、多くの学生は社会人になったと同時に多額の借金を背負うことになり、毎月1万~3万円の返済金を、15~20年にわたって返していかなければなりません。安定した収入を得られれば、毎月返済することは可能ですが、何らかの理由で働けなくなってしまった場合や、そもそも得られる収入が少ない場合、奨学金の返済は大きな負担になります。そのような人々の中には、返済の滞納を繰り返し、やがて自己破産に至る人もいるのです。「日本学生支援機構(JASSO)」によると、過去5年間でおよそ1万5千人が奨学金を返済できずに自己破産に至りました。
このように、「奨学金破産」は、現代の社会問題の一つになっているのです。学生の進路指導を行う際、奨学金制度を勧める先生も多いと思いますが、この問題についても言い添えておくべきでしょう。
 奨学金制度の説明をする際、貸与型における返済義務だけではなく、給付型という返済義務がない制度についても説明する必要があると思います。給付型の奨学金制度を利用すると、資金援助だけではなく、留学支援や体験イベントへの招待など、学生が学ぶための環境を提供するさまざまな援助を受けることができます。優秀な学生の学びたいという意欲を最大限に生かすためのしくみです。
 しかし、給付型の奨学金制度は、貸与型に比べて審査基準が非常に厳しくなっています。ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏が設立した「孫正義育英財団(http://masason-foundation.org/)」では、「分野は問わず、国際大会または全国大会規模のコンテストにて優秀な成績を収めた方」や「国際的に通用する資格を所持、または団体に所属している方」、「起業準備中又はすでに自身の経営する事業にて業績を出している方」など、応募に必要な資格もレベルの高いものになっています。「日本学生支援機構(JASSO)」では、「十分に満足できる高い学習成績を収めている」などの項目をもとにした学校の推薦が必要です。さらに、奨学金制度を受けられる人数も限られています。給付型の奨学金制度を利用したいと考えるのであれば、受験期間に入るよりもっと前から、スポーツや学業など、いずれかの分野でひとかたならぬ努力をしなければなりません。
学生の学びたいという気持ちが、家庭の経済的な理由などによって妨げられてしまうのは残念なことです。奨学金制度は、そのような学生を救済する一つの手立てになることでしょう。そして、「奨学金破産」が急増する今、貸与型だけでなく給付型の奨学金制度にも注目すべきでしょう。たしかに審査基準は厳しいものですが、早い段階から将来を見据え、高い学習意欲がある学生であれば、給付型の奨学金制度を勧めてもよいのではないでしょうか。学生の進路指導を行う場合、高校や大学に進学すること自体も大切ですが、その進学先を卒業したあとについても、十分に話し合わなければなりません。 (文/学林舎編集部)