○Cross Road 第90回 スポーツマンシップを考える 文/吉田 良治
今月はスポーツマンシップについて考える機会が増えています。日本アメリカンフットボール協会(JAFA)では、昨年フェアプレイ推進委員会が立ち上がり、再発防止とフェアプレイの2つのワーキンググループ(WG)が活動しています。私は両方のWGに関わらせていただき、日本のアメリカンフットボールからスポーツ界の健全化に向けた動きをお手伝いしています。
今月はフェアプレイWGが2つの取り組みを実施中です。1つはNFLシアトル・シーホークスの元コーチで、日系アメリカ人のロッキー瀬藤氏を招き、2月7日に特別セミナー“スポーツマンシップを学ぶ~勝利よりも大切なもの~”を開催しました。瀬藤氏は2年前にアメリカンフットボール指導者を引退し、現在キリスト教の牧師をされておられますが、ご両親が生まれ育った祖国・日本のアメリカンフットボール界に何かお役に立てれば、という思いで来日をされました。日本ではスポーツはもちろん、家庭や学校教育でも体罰の事案が発生します。暴力で躾をするのではなく、正しい人間関係の構築を前提として、子供や若者をどう導くのか、そこを大人が責任を持って関わっていくことが重要になります。瀬藤氏はご自身が選手として、そしてコーチとしてこの競技に関わる中、培ってきたことで、今日本の指導者が必要と思うことについて、丁寧に共有していただきました。
そしてもう一つは、スポーツマンシップの風土が根付くために、日本全国のアメリカンフットボール界へ、フェアプレイとスポーツマンシップの取り組みを共有していくことです。2月23日には福岡市で九州地区のアメリカンフットボール関係者へシンポジウムを提供し、それぞれのチームの現状・状況確認や、今後どのような取り組みが必要になるのか、ともに考える機会を持つ予定です。そして九州地区を皮切りに、来月は広島で中四国地区のアメリカンフットボール関係者に同様のシンポジウムを提供します。今後全国のアメリカンフットボール関係者へこの動きを広げていきます。
昨年は日本のスポーツ界で様々なトラブル・不祥事が発生しました。7年前には大阪の高校で体罰を苦にした生徒が自殺をする事件が発生し、その後スポーツ界、そして教育の現場での体罰に対し、厳しい目が向けられました。しかし、スポーツや教育の現場での暴力やパワハラ指導の根絶にはまだまだ程遠い状況です。また家庭での躾と称する児童虐待も深刻です。子どもが親の躾と称する虐待により、命を落とす痛ましい事件も後を絶ちません。
今月は国連で採択された条約に基づく“子どもの権利委員会”から日本政府に対し、子どもへの体罰を禁じる法整備を急ぐよう勧告されました。スポーツや教育の現場はもちろん、家庭での躾も暴力を用いた時点でそれは犯罪です。犯罪で若者や子供を正しく導くことはできません。その自覚が日本の大人に必要です。
まずスポーツ界が反暴力を掲げ、スポーツ界の健全化を実現し、正しいスポーツ活動を通じ、社会の模範としてスポーツマンシップを共有していくことが重要です。そしてスポーツマンシップが一般社会でも共有が進んでいったとき、それが健全な社会を実現するシチズンシップになるのです。(つづく)
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