2019年教育の行き先 デジタル教科書の現在
学校では、これまで紙の教科書を使って授業が進められてきました。これは学校教育法で「小・中学校、高等学校の授業では、紙の教科書(文部科学大臣の検定を経た教科書)を使用しなければならない」と、定められてきたからです。それが、2018年5月25日の国会で、「デジタル教科書」を正式な教科書と位置づける改正学校教育法が可決・成立したため、2019年4月から、教育現場でデジタル教科書を使用して授業を行うことが可能になりました。文部科学省(以下文科省)では、2020年以降にデジタル教科書を本格的に普及させたい考えです。
そもそも、デジタル教科書とは、どのようなものでしょうか。タブレットを思い浮かべてみて下さい。このタブレットの中に、コンテンツとして電子データ化された全教科の教科書が入っている、というものです。そして、このタブレットを子ども一人一人が一台ずつ持つことが想定されています。
デジタル教科書を導入すると、どのようなメリットが考えられるのでしょうか。第一に、わかりやすい授業ができるということが挙げられます。理科の授業で考えてみましょう。実際に行うことが難しい実験や、観察が困難な事象を、映像で即座に確認することができます。英語の授業では、ネイティブの発音を実際に聞くことができます。社会の授業では、地理の学習でその土地の様子を映像で確認することができます。算数・数学の授業では、図形を自分の指で動かしたり、回転させたりすることができます。視覚・聴覚で捉えることで、学習内容への理解がより深まるとともに、学習の楽しさ、学習への意欲も増すことが期待されます。また、デジタル教科書には、文章の音声読み上げや、文字の拡大などの機能があるため、視覚や聴覚に障害がある子どもの学習に大いに役立つことでしょう。更に、すべての教科書が1つのタブレットに入ることで、登下校時の荷物が軽量化できるというメリットもあります。小学校低学年の登下校時の荷物の平均重量は7.7㎏といわれています(朝日新聞2018年3月26日)。デジタル教科書の導入により、分厚い教科書を毎日何冊も持って登下校をする負担が軽減されるでしょう。
教師にとってもメリットがあります。子どもたちの学習の進み具合や、理解できていない部分などを把握しやすくなります。データをもとに、漢字の練習をくり返す、苦手な計算問題をくり返し解くなど、それぞれの子どもにあった学習プログラムを提供することも容易に行えるようになります。ただし、このような効果を期待するには、教師側のICT(情報通信技術)活用指導力の向上は必須です。
デジタル教科書の導入にはどのような問題点があるのでしょうか。まず、タブレットの費用の問題があります。現在の紙の教科書は、法律に基づき無償で配布されていますが、デジタル教科書は無償ではありません。地方自治体か保護者がこの費用を負担することが想定されています。また、ディスプレイを長時間見続けることによる視力の低下など、子どもの身体への影響も考えられます。それに加えて、映像や音声の機能に依存しすぎて、実際に手を使って書いたり、考えたりする力が育たなくなるのではないかということも懸念されています。
デジタル教科書導入に向けての整備状況も問題になっています。2018年2月に文科省が発表した「学校における教育の情報化の実態に関する調査」によると、デジタル教科書の整備状況(無線LAN整備率・超高速インターネット接続率・電子黒板整備率など)は、小学校で52.1%、中学校で58.2%となっています。整備率が50%台、つまり2校に1校が未整備という状況です。また、都道府県別で整備率が最も高いのは佐賀県で98.7%、最も低いのは北海道で16.5%となっており、地域による格差が大きいという問題もあります。義務教育でこのような差が生じるということは、教育の機会均等に反することになります。
教育の情報化に伴い導入が決定された「デジタル教科書」ですが、まだまだ多くの問題が山積みされているのが現状です。更なる検討、準備を重ね、「デジタル教科書」が学習に効果的に活用され、文科省が期待する「主体的・対話的で深い学び」の実現に大きな役割を果たすことが待ち望まれています。(文/学林舎編集部)
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