2019.04.19

○Cross Road 第92回 小さなことを積み上げが世界を制する 文/吉田 良治

 
  今年のマスターズゴルフは、プロゴルファーのタイガー・ウッズが14年ぶりに優勝しました。メジャータイトル(全米オープン、全英オープン、全米プロなど)では11年ぶりの優勝となりましたが、家庭問題、けが、そして精神面の不安定など、もうタイガー・ウッズの時代は終わったのか、と思われていましたが、今年のマスターズでタイガー・ウッズは、全盛期を彷彿させる見事なゴルフを展開しました。優勝インタビューでは“決してあきらめてはいけない。”という言葉が使われました。タイガー・ウッズは現在43歳、ゴルフは年齢的に長く続けられるスポーツですが、大きなスランプを乗り越えるには、“決してあきらめてはいけない。”という不屈の精神と、日々積み上げてきた努力が重要になります。
 最年少でマスターズを制したタイガー・ウッズの大きな武器は、スタンフォード大学へ進学した知性、ゴルファーとしてのアスリート能力、そして自分の力を発揮するポイント、ピークパフォーマンスに長けている点です。21歳で初めてマスターズを制し、世界ランキング1位も獲得しました。世界ランキング1位は歴代最も多く獲得(683週)しました。しかし、11年間低迷し一時は世界ランキングが1199位まで下落した中、再び世界のトップに立つまで復活するには、これらの能力とともに、日々小さなことをこつこつと積み上げてくる気骨が求められます。何かを成し遂げるうえでこれらの要素はとても重要です。
 長く活躍したアスリートといえば、今年3月に引退したプロ野球選手のイチローも、日々の努力の継続が有名です。引退しても毎日続けてきたトレーニングは継続しているとのことですので、日々の習慣化されたことは、引退後も変わらないのでしょう。日米のプロ野球で数々の記録を打ち立てたといっても、野球の一流打者にとって7割は挫折を味わいます。イチローの日米通算4,367安打も、9,000本以上アウトになった口惜しさが生んだものです。タイガー・ウッズと挫折の中身は違いますが、悔しい思いをした、苦しい時期を乗り越えるためには、決してあきらめない精神と、日々の努力の積み重ねが重要であることが伺えます。
 男子フィギュアスケートでも挫折から立ち直り復活したアスリートがいます。日本では羽生結弦はけがによる挫折を乗り越え、平昌オリンピックで金メダルを獲得しました。そして、平昌オリンピックでメダル候補だったアメリカのネイサン・チェンは、ショートプログラムで失敗しメダルを逃しましたが、その後努力を積み重ね、今年世界選手権で2連覇を果たしました。現在世界の難関大学のイエール大学で医学を学ぶ学生でもあるネイサン・チェンは、文武両道を実践しながら高いレベルの努力を実践しています。日本では今年から大学スポーツを改革する、大学スポーツ協会・UNIVASが立ち上がりました。UNIVASでは学業とスポーツのバランスを整備することが大きな柱になっています。タイガー・ウッズ同様、学業との両立をもとに復活したネイサンチェンは、日本のアスリート育成でも多様な努力の積み重ねという、新しいモデルケースになるのかもしれません。(つづく)

吉田良治さんBlog