2019.06.14

2019年学習の行き先 日本語を考える

   「ロッカールームで、主将はやおら立ち上がり、チームメートに檄を飛ばした。」
 この一文で述べられているのは、主将が急に立ち上がって、チームメートを活気づけた様子……ではありません。主将は「やおら(=ゆっくりと)」立ち上がり、チームメートに「檄を飛ばした(=自分の主張を伝えて同意を求めた)」のです。
 「やおら」「檄を飛ばす」の意味について、平成29年度の「国語に関する世論調査」(文化庁)で、次のような調査結果が発表されています。
 選択肢から「やおら」の意味を正しく選んだ人は39.8%。誤って選んだ人は30.9%。
 
・平成18年度では、正しく選んだ人は40.5%。誤って選んだ人は43.7%。

 選択肢から「檄を飛ばす」の意味を正しく選んだ人は22.1%。誤って選んだ人は67.4%。

・平成19年度では、正しく選んだ人は19.3%。誤って選んだ人は72.9%。

・平成15年度では、正しく選んだ人は14.6%。誤って選んだ人は74.1%。

 これらの結果から、言葉の意味を正しく理解している人の割合はおおよそ増加傾向にあり、誤って覚えている人の割合はおおよそ減少傾向にあることがわかります。つまり、言葉の意味を正しく覚えるという観点では、日本人の日本語能力は、この10~15年で向上しているといえるでしょう。
 ただし、同じ「国語に関する世論調査」の中で、気になる結果もあります。「溜飲を下げる/溜飲を晴らす」のどちらが正しい使い方か、という調査では、次のような結果が出ています。
 選択肢から「溜飲を下げる」という正しい使い方を選んだ人は37.4%。「溜飲を晴らす」という誤った使い方を選んだ人は32.9%。

・平成19年度では、正しい使い方を選んだ人は39.8%。誤った使い方を選んだ人は26.1%。

 正しく選んだ人の割合が少し減り、誤って選んだ人の割合が6%以上増えています。つまり、10年前と比べて、日本語を正しく使えているかという観点では、日本語能力は向上していない、あるいは低下しているように見えます。日本語を正しく覚えて知識として定着させること、つまりインプット能力には一定の成果が出ている一方で、覚えた知識を正しく使うこと、つまりアウトプット能力は下がっている可能性があるのです。

 2019年4月に実施された全国学力調査において、小学6年生の出題では報告する文章やインタビューなどが、中学3年生の出題では新聞の紙面や意見文の下書きなどが、国語の問題の素材として扱われています。これまで以上に、言葉の意味を含む知識や読み取った情報についての、いわゆる活用力を求める出題が、全面的に押し出されているのです。
 日本語を活用する能力が、現代における日本語能力として求められているのだとすると、先に述べた「国語に関する世論調査」で、言葉の使い方を誤る人の割合が増えているという結果が出ていることは、深く受け止める必要があるといえます。
 「PISA型読解力」「非連続型テキスト」などの言葉が教育現場で取り上げられるようになってしばらく経ちますが、現代に必要とされている日本語能力が日本人に定着しているというには、まだ不十分なようです。いま一度、覚えた言葉をいかに正しく活用するかという観点で、日本語教育について見直してみる必要があるでしょう。(文/学林舎編集部)