○Cross Road 第96回 スポーツマンシップ・マインド 文/吉田 良治
昨年はスポーツ界で様々な不祥事が発生し、昨年12月には超党派のスポーツ議連から文部科学省へ、スポーツ界の健全化を目指す提言“スポーツインテグリティの確保”が提出されました。今年日本ではラグビーワールドカップが開催され、来年はいよいよ東京五輪・パラリンピックが開催されます。スポーツ界の様々な不祥事の改善に向け、国のスポーツ政策の柱はオリンピックのメダルの数より、スポーツ界の健全化が最重要課題になってきました。
スポーツ界で最も根深い問題の一つは指導者の体罰・パワハラ問題です。今年はプロ野球やJリーグ、Bリーグといった国内プロスポーツにおいても、指導者の体罰やパワハラの事案が発覚しました。高校野球では毎月不祥事の処分が発表され、多い月には2桁を超えることも珍しくありません。その多くは指導者の体罰・パワハラ事案です。スポーツの指導者がまず模範となる存在でなければ、スポーツ界の健全化は成し遂げられません。
今年6月に企業の人材育成を手掛けるPHP研究所から、スポーツコンプライアンス・パワハラ防止の教材“実践!グッドコーチング”が発売されました。スポーツの指導の現場で発生する体罰やパワハラの事例をもとに、“バッドコーチング”にならないためのブレーキ役がこのテキストの役割です。このテキスト作成に際し、私は自身のスポーツ指導者経験から“バッドコーチング”にならないための模範例を提供しました。今後必要になるのは“真のグッドコーチング”のためのアクセルになるプログラムです。キーワードはスポーツマンシップの思考回路を開く!です。日本のスポーツ界ではスポーツマンシップがあまり重要な位置づけにありません。多くは掛け声で終わっています。真のスポーツマンシップ・マインドを育むためには、まさに“実践”で取り組めるプログラムが必要になります。
神戸製鋼のラグビー部7連覇を成し遂げた故平尾誠二さんと、以前お会いする機会がありました。その時平尾さんと日米のスポーツ指導法について意見交換をさせていただきました。その後平尾さんは“日本型思考法ではもう勝てない”という著書を執筆され、その中で私とのやり取りも取り上げていただきました。“日本型”がすべて間違いではなく、守っていくべきものは維持し、変わらなければいけないものは改善していくことが重要です。今までしてきたことを改め、新しいことにチャレンジするためには、それに合った思考回路を開くことが重要です。掛け声で終わってきたスポーツマンシップを当たり前にするためには、フィールドの中はもちろん、日々の生活全体の中で育んでいくことが必要となります。重要なことは指導者、選手がともに実践することです。
昨年試合中のタックルが問題になった日本大学アメリカンフットボール部では、チーム再建で取り組んだ中にスポーツマンシップがありました。私は半年間チームをサポートし、監督・コーチと学生がともに取り組めるプログラムを提供しました。半年ですべてが変わるわけではありません。スポーツマンシップの思考回路を開くため、日々思考にインプットとアウトプットを繰り返し、継続して取り組むことが重要になります。
私がお手伝いしたのはあくまでもチームの健全化に向けた環境と機会を提供したにすぎません。プログラムは教育ではなく、自らの意思で実践することにあります。そしてその実践は継続・習慣化されて、はじめて新しい思考回路を開くことができるのです。(つづく)
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