○Cross Road 第97回 アスリート活動の健全な環境 文/吉田 良治
9月に入っても猛暑日が続きましたが、徐々に秋らしい気候になってきました。来年は東京五輪・パラリンピックが開催されますが、高温に加え湿度も高い日本の夏にスポーツをすることは命の危険があります。先日のマラソン日本代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ・MGCを見ていると、真夏の日本でマラソンを実施することは、尋常ではないと感じます。最高気温が40度を超える日も珍しくなくなっていますので、根性で何とかなる問題ではなくなっています。とはいえ、IOCで夏のオリンピックの開催時期(7月15日~8月31日の間)が決まっているので、この条件で開催することになります。エアコンの効いた室内競技は別として、野外競技は日中の実施を避け、夜間や早朝に開催することが必要になります。アスリートだけでなく観戦者の健康にも配慮した運営が求められます。
日本では根性を求める体質が根深くあります。それが最もよくわかる事例は体罰やパワハラ指導、上意下達の体育会系から見えてきます。2012年に発生した大阪の高校の部活顧問による体罰自殺事件以降、体罰指導に改善が求められてきましたが、まだまだ改善途上といえます。これはスポーツ界だけの問題ではなく、家庭での躾のための児童虐待、学校での生活指導、職場でのパワハラなどブラック問題が一般社会生活にも影響しています。スポーツ界がまずスポーツマンシップを大事にし、健全なスポーツ運営を実践し、それを社会へ模範として共有することが重要です。
スポーツ界の健全化については国が昨年から“スポーツインテグリティの確保”を掲げ、具体的に取り組みが始まりました。学校部活の改善については、東京都教育委員会が都内の公立中高校を対象に、長時間部活を無くし、学業との両立を目指し、人間力を育むことを目的にした方針を作成しました。スポーツ偏重は体罰やパワハラ体質と根っこでつながっていきます。スポーツ以外の時間を如何にして確保するのか、国や教育委員会がリーダーシップを発揮して、具体的な方針を示し実行していくことが重要です。
ここで一つ気になることは、指導者だけでなくスポーツに前のめりになる親の存在です。スポーツをする子供が上達する・強くなるためには体罰やパワハラ指導、長時間練習を支持する親も少なくありません。スポーツに限らず楽しく取り組めることが上達のカギです。子どもが苦しむ姿に上達のカギはありません。平昌オリンピックで最も多くのメダルを獲得したノルウェーでは、小学生卒業年代まではスポーツで楽しむことを重視しています。勝ち負けや得点の優劣などを意識せず、良好な人間関係や友情を重視しています。スポーツの真の価値はそこにあります。ノルウェーのように国が正しい方向性を持ち、現場の指導者や親がその方向性を尊重したスポーツ運営をする、そこに真のスポーツの強さが芽生えてきます。
厚生労働省の調査によると未成年の自殺の要因として、小学生で最も多いのは家庭問題(躾・親子関係の不和など)です。子どもを正しく導くために、親がすべきことは体罰で子どもに恐怖を与えコントロールするのではなく、子どもが自分の意思で考え、自信を持って行動できるような環境を整えるべきです。本来スポーツにはその環境が整っています。親と指導者がそのスポーツの真の価値に気づき、ともに楽しく取り組めるようになると、家庭の躾、そしてスポーツ指導の現場から体罰やパワハラはなくなっていきます。(つづく)
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