○Cross Road 第99回 ラグビーワールドカップ日本代表から見えるダイバーシティ 文/吉田 良治
今年、日本でラグビーワールドカップが開催され、日本代表がグループリーグを全勝で勝ち上がり、初のベスト8進出を成し遂げました。準々決勝では前回大会に勝利をしていた南アフリカと対戦し、3-26で敗れました。しかし、これまで大きな壁となって立ちはだかっていたティア1といわれる世界上位8か国の中に割って入り、今回の大会もグループリーグで対戦時世界ランキング1位のアイルランド、そして前回大会に敗れベスト8進出を阻まれたスコットランドと、ティア1チームを立て続きに撃破してのグループリーグ突破は、日本ラグビーの歴史に新しい扉を開いた瞬間でした。
一方ラグビーの特性上、国籍が違う国の選手でも一定条件をクリアすれば、他国の代表として試合に出場することが可能であるため、今回の日本代表にも主将のリーチ・マイケル選手をはじめ海外出身者(日本国籍取得者を含む)が数多く日本代表として出場しました。日本では少子高齢化が進み、あらゆる分野で人材不足が深刻化しています。スポーツも例外なく人材不足に陥ります。高校スポーツでは野球やラグビーなど一校では単独チームを構成できず、複数校での合同チームで大会に出場することが増えています。しかし、プロ野球やJリーグなどプロスポーツだけでなく、アマチュアスポーツの多くで外国人の参加をいまだに制限しています。企業では労働力不足が深刻化し、海外からの労働力を活用する動きが加速していきますが、スポーツ界はまだ外国人選手枠で制限をかけ続けています。
一方、アメリカのプロスポーツでは海外からの参加に制限はなく、MLBやNBA、そしてNHLなどは、海外からの選手の受け入れに積極的です。オリンピックや世界選手権などの国際大会をみると、MLB、NBA、NHLの国別オールスター戦と思えるほどです。大学スポーツのNCAAでも海外の留学生が数多く参加しており、リオオリンピックでは約1,000名のNCAA出身・現役のアスリートが参加し、6割は海外の留学生でした。NCAAの大会がオリンピックレベルの高い国際大会と同等といえるのです。
以前、ミスターラグビーとして知られる平尾誠二と、コーチングについて意見交換したことがありました。その時の内容が平尾氏の著書“日本型思考法ではもう勝てない”でも取り上げていただきました。日本で様々な課題がある中、多くのケースで改善の邪魔をするのは狭い世界の思考です。以前対談した元阪神タイガースのマット・マートンも、“Think Outside The Box(既成概念を取り除け)”という言葉を使い、日本で必要なことは既成概念にとらわれない姿勢が重要!と話していました。平尾氏とマートン、日本で成功した二人のスポーツ関係者が共通して指摘した日本の問題点とその解決は、柔軟な思考と広い心で違う価値観を尊重し、相互理解を深め課題の解決に力を合わせて取り組むことを意味します。
今回のラグビー日本代表の成功事例は、日本のスポーツが発展するうえで単なる人材確保だけでなく、ダイバーシティ・多様性を養う絶好の機会の場として、海外からの人材の受け入れを積極的に行うことを教えてくれています。そしてダイバーシティはスポーツに限らず、あらゆる分野で必要とされています。(つづく)
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