表現力・リテラシーを考える
「読み・書き・そろばん」
義務教育が生まれてから今日にいたるまで、小学校の学習は、実社会で生きていくための不可欠の条件と考えられました。
それは「読み・書き・そろばん」を学ぶことでした。それが「計算が速くできる」「漢字が書ける」という繰り返し、暗記学習です。知識を正確に再現できる暗記学習は、重要なことです。暗記学習の能力判定の基準は、知識の量であり、スピードです。しかし、暗記学習中心で育てられた人材に日本経済は、20年ほど前から限界を感じていました。本来ならば、その時点で学校でおこなわれている学習教育を見直さなければいけないのですが、できないまま現在の状況にあります。
こういった状況を受けて、来年度から小学校で本格的に実施される学習指導は、従来の暗記に加えて自分の言葉で表現できることを求めています。この学習指導の特徴のひとつに、暗記学習は学校で学習するのではなく、家庭で学習することを想定しています。「基礎学習は個人でしっかり定着させましょう」と。そのため、地域にもよりますが、学校の宿題(繰り返し、暗記学習)の量が増加しています。この増加の背景には、指導する側、受ける側の不安を解消させるためのものです。ただ、学習者である子どもにとってはどうでしょうか。わかっていること、できることを繰り返す学習は、学習に対する意欲を低下させる原因のひとつになります。そして、学習は暗記して、繰り返せば良いという偏った学習習慣が身についてしまうとそこから脱するには時間がかかります。
「表現リテラシー」
「読み・書き・そろばん」のリテラシーが、暗記能力を基礎として成り立ったのに対して、求められる自分の言葉で表現できる力=表現リテラシーとは、どのようにして身につけられるのでしょうか。表現リテラシーを身につけるには、表現力を支えるための情報リテラシーを理解しなければいけません。情報リテラシーが従来のリテラシーと根本的に違うのは「本人の目的意識性」の介在なくしては、成り立たないところにあります。ここで始めて私たちは、いままでにない「個人」を対象とした学習指導のあてのなさにぶつかります。しかし、よく考えてみればこれは、今までの目的のない暗記学習よりはるかに自然です。学習者である子どもたちはもともと「好奇心」のかたまりのような生き物です。その好奇心が自から情報を集めさせ、より深い学習への道を開くのです。まず、私たちは、子どもたちを強制された学習から解放し、子どもたちの原点である「好奇心」をうながす役目を果たせばよいのです。ここでは、「好奇心」による「本人の目的意識性」によって構築されていく能力育成と私たちが何をすればよいかについて述べていきたいと思います。
① 情報収集の能力育成
インターネットなどPCを媒介にした情報収集の提供。関連書物の提供。現場での聞き取り調査の機会提供。その他。
②情報分類の能力育成
収集したものを分類させます。これによって必要な情報と不必要な情報を見分ける力ができます。データの作成が必要なものは、PCを使ってデータ作成の指導を行います。
③情報分析の能力育成(観察能力)
表にしたり、グラフにしたりするのをPCを使って作成指導。あるいは情報の変化からその原因を分析。あるいは法則性の発見。情報の種類に応じて、いろいろな角度からの分析を指導。
④情報から得たものを導き出す能力育成(推察力の育成)
レポートの作成指導。論説文指導など。PCを使って文章を書くことを前提に指導。
これらの過程で、学習者である子どもたちはより好奇心の巾を広げて、表現力=自分の言葉を獲得していきます。①~④の指導に当たって、私たちが子どもにできることは、様々な問題につきあたった場合、できるだけ好奇心を広げる方向性でサポートしていくのが、指導の役目といえます。子どもは、わからない、できないとつぶやくかもしれません。その際に共に考え、共感し、子どもが意欲を保てるようサポートするのが重要です。小学生だから、中学生だからと言う、垣根を指導する側が取っ払うことにより、表現リテラシーはより豊かなものになるはずです。それは同時にも科目学習という枠を超えていくことになります。専門的な学習をより効果的に行うための総合的な視野と、表現リテラシーの最低限の基礎を身につけることを目的とした学習教育への転換が求められるのです。(文/学林舎 北岡 響)
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