2019.12.20

○Cross Road 第100回 令和元年 文/吉田 良治

 
 今回でCross Roadが100回目となりました。長く続けさせていただき、学林舎の北岡社長には大変感謝しております。
 今回のテーマは今年新しい元号になった“令和”を取り上げます。今年5月1日の新天皇即位に伴い、新しい元号として令和になることが、4月1日に発表されました。当初令和の令を命令と連想された人も多かったかもしれません。実際令について“Order”や“Command”と訳した海外メディアもありました。政府もあわてて令の意味を“美しい”とし、令和は“Beautiful Harmony”と説明しました。この令和の意味の説明と、典拠が日本に現存する最古の和歌集である万葉集であることなど、新しい元号“令和”は国民に広く支持が広がっていきました。過去の元号は全て中国の漢籍が典拠とされてきましたので、国書由来初の元号ということも支持される大きな要因といえます。
 今年はスポーツ界の指導の現場はもちろん、家庭での子供の躾、学校や職場での指導など、様々なところでパワハラや体罰が多く発生しました。令和の令が“Order”や“Command”という意味にとらえられるのも、日本人の根底にある暴力・支配的な一面もあるのかもしれません。昭和の時代には当たり前だった家庭での躾、教育やスポーツ指導の体罰、そして企業の職場でのパワハラも、平成で発生した体罰・自殺といった痛ましい事件を経て、美しい和・令和という新しい時代に変わった今、令和という言葉にふさわしい国民性を育んでいくうえで、国民一人一人が正しい人としての在り方を見直す必要があります。
 国際的NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査によると、日本人の6割が体罰を容認する考えを持ち、子育て中の親の約7割は体罰の経験がある、と答えています。今月厚生労働省は家庭や教育の現場で何が体罰になり、職場で何がパワハラにあたるかを示すガイドライン案を作成しました。しかし、親、教師、スポーツ指導者、そして職場の上司などは、今までの躾や指導がNGとなると、どう指導していいのかわからない、という方も少なくないでしょう。
 今年は2つの高校で体罰・パワハラ防止のセミナーで講師の依頼をいただきました。どちらの高校でも生徒の指導でどう接するべきか、今までの指導法ではパワハラととらえられないか不安を抱えている方もおられました。
 今年PHP研究所からスポーツコンプライアンス・パワハラ防止の教材“実践!グッドコーチング”が発売されました。スポーツ庁や日本スポーツ協会が製作協力し、私はスポーツ指導者の立場でこの教材制作に協力しました。ただ、この教材は体罰やパワハラに認定される事例集をもとに、体罰・パワハラ指導をしない=ブレーキの役割で、正しい指導のためのアクセルになる機能がありません。正しい指導を実践で取り組むことがなければ、結局“(体罰を)するな(Order)!”という指針だけでは効果は期待できません。
 スポーツにはスポーツマンシップというスポーツ活動における重要な心構えがあります。しかし、日本のスポーツ界ではスポーツマンシップを掛け声で終わらせ、正しく実践されることがあまりありません。正しいスポーツマンシップの実践とその継続をもとに、健全なスポーツ運営が実現できれば、スポーツ界の体罰やパワハラといった問題は減少していきます。そしてスポーツマンシップを社会へ共有し、社会にある体罰やパワハラの解決にもつながっていきます。
 来年はいよいよ東京五輪・パラリンピックが開催されます。日本が令和という新しい元号にふさわしい国であることを世界に示すうえで、スポーツ界の責任は重要です。(つづく)

学生アスリート教育プログラム 紹介動画(追手門学院大学) 吉田良治さん指導

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