子どもと進路を考える
子どもと進路を考えるにあたって、社会的地位が高いとか、高収入を得られる職業に就くという抽象的な思考は進路を意味しません。医者になる、弁護士になるは社会にとってどんな意味があり、価値があるのかを考えるという高く、深い観点から進路について考えるということです。それは大人が「自分が生きる」ことについて考えるということと同義といえます。
ここでは、進路を共に考えるにあたって、別の切り口「進路その2」と位置づけて考えてみることにします。
進路その2は「我を忘れて熱中できる、自己実現を行う」というレベルを意味します。では、進路その2について検討してみます。あなたの周辺に「デザイナーになりたい」という小学生の女の子がいるとしましょう。あなたは、この女の子と進路その2についてどう仮説検討しますか。
この女の子から聞き取り調査をすると、次のようなことが判明しました。「自分の小さいときから、小学生になるころまで祖母が家で反物から着物をつくっていた。長い布から着物ができていくのを見ているだけで楽しく、だんだん自分もつくりたいと思うようになった。そのうち日本人だけでなく、世界のいろいろな国の人にも自分のデザインした服を着て喜んでもらえたらいいなと考えるようになった」と。
ここからが器量が問われるところです。
先の聞き取り調査から見えてくることは3つあります。「服」であり、「デザインする」であり、「世界」です。
「服」について考えるということは、人間の生活とくに衣食住について考えるということです。また、「デザイン」については、人間の創造性、造形力について考えるということで、閉鎖性を簡単に飛び越え、世界と通底していることといえます。これによって「服」自体も、「デザイン」も世界の歴史全体を、いいかえれば人類の遺産を継承することになります。
私たち大人の多くは進路→進学→就職という道を示されてきました。否定はしません。しかし、もっと子どもたちとちがう角度で語り合えたのではないでしょうか。「将来」「自分自身であること」「社会的にかけがえのない存在になること」「世界的存在になること」などについて、語り合うことが進路その2の柱だと私は思います。それを子どもと語り合うことによって、大人がいだいている閉塞感を突破できるのではないかと思います。
新しい教育は、誰かと相談することによってではなく、当事者意識をもった人間によって恐れることなく「やってみる」ことですべてが動くのではないでしょうか。(文/学林舎 北岡)
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