○Cross Road 第102回 日本型雇用の転換期 文/吉田 良治
今年の春闘に向け、経団連は日本型雇用システムの見直しと、ジョブ型雇用システムへの移行の指針を出しました。日本型雇用システムとは新卒一括採用や年功型賃金・定期昇給、そして終身雇用といった、日本で長く続いてきた雇用制度で、今も多くの企業がこの雇用システムを運用しています。新卒一括採用から見える日本型雇用システムとは、新卒一括採用された大学生は、特に職歴というものがなく、企業が職能訓練を施し、適性を見定め適切な部署に配置します。つまり、日本の就職活動は“就職”ではなく、“就社”活動なのです。
一方欧米で取り入れられているジョブ型雇用システムとは、学生が学生時代からインターンシップなど、企業の職場で実践経験をつんで職能を身につけていきます。インターンシップも立派なの職歴として認められています。つまり野球で例えると、いつでもバッターボックスに入って野球ができる状態にするのがインターンシップということで、プロ野球のドラフト指名を受ける資格を有するようなものです。アメリカでは一般のビジネスでも、プロ野球と同じレベルでプロフェッショナルな人材を求めているので、職能や職歴を持たない大学生を雇用して、給料を支払い、一から仕事を教えることはしません。プロ野球チームが野球を知らないものをドラフト指名し、給料を支払って一から野球を教えることがないのと同じです。
日本でもアメリカのように、新卒者でも初年度年俸1,000万円を提示されるケースも出ています。プロ野球ならドラフト上位クラスの活躍が期待される金額です。日本もこれまでのように新卒者は企業に育ててもらえる、という日本型雇用の時代ではなくなってきたといえます。
新卒一括採用の問題点として、少子化の影響で新卒採用は超売り手市場となり、企業は内定者の確保はできても、一人で複数の企業から内定を受けた学生は、最終的に一社を選択し残りの企業は内定辞退となります。企業にとっては早く内定を出したとしても、その内定者が必ず入社する保証がなく、予定した新卒者の確保ができない企業も少なくありません。また、新卒者の3割が3年で離職するといわれており、企業が職能や職歴のない新卒者を雇用し、給料を支払い仕事を教えていくコストを考えると、新卒者の3割が3年以内に退職することは、費用対効果としてリスキーなことと思われています。
大学生にとっては3年生の秋学期から大学生の就職活動が始まり、半年から一年近く就職活動に時間が拘束され、学業を犠牲にしてしまう学生が多くいるため、大学のゼミが成り立たない、といったケースも珍しくないこともあり、4年制大学が実質短大化していると揶揄されてきました。学生の学業を受ける機会を阻害することは、企業側にとって決してイメージの良いものではありません。
10年前、当時伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏とお会いすることがあり、大学生が1年半近く就職活動に縛られ、授業にでれない学生が多くいること、そして日本型雇用システムが機能しなくなっていくのでは、と伝えました。高等教育であるべき4年制大学が、一般教育化している状態であることに危機感を抱かれ、伊藤忠商事が加盟する商社の業界団体、日本貿易会でこの問題を議論され、企業側の新卒者採用活動開始時期を遅らせるムーブメントとなりました。しかし、10年前の時点でジョブ型雇用システムを意識された企業はほとんどありませんでした。10年経ってやっと時代が追い付いてきたと実感しています。(つづく)
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