要約力を身につけるために何を学習するのか
(1)はじめに
要約、要約力とはいったい何なのでしょう。
試験などで「下線部のそれが何を指すのか40字以内で要約しなさい」とか、夏休み中に「課題図書から1冊選んで2000字以上で要約しなさい」といった宿題をもらったことがあるのではないでしょうか。
要約について思考する前に、まず「要約の意味とは何か」から考えてみます。
(2)<要約>の<意味>
要約の意味とは「要約するとはどういうことかを、自分あるいは他の人にわかりやすく説明できること」です。試験などで「要約しなさい」という問題があると、それは与えられた文章を自分にも他の人にもわかりやすく説明しなさいということなのです。ここで考えなければいけないのは、自分だけ理解しているだけでは不十分であり、他の人がわかっても自分の言葉ではない、たとえば辞書の丸写しや、他の人の要約の丸写しは、自分自身で要約したとは言えないということなのです。
(3)読み書きについて
要約するためには、要約を求められている文章や書物が読めなければなりません。ということは、「読む」とはどういうことかがわかっていなければなりません。
江戸時代、手習塾とか寺子屋がとても盛んになりました。読み書きができないと困ることになってきたからです。そのころから世の中がより複雑になってきて、幕府や藩などからの知らせが文字を通して行われるようになってきたのです。それまでは、文字は貴族や武士、あるいは一部の知識人やエリートしか必要としなかったのです。村や町の世話役が知っていればよかったからです。
ところが、江戸時代、幕府や藩が世間の人々に対しても通信方法として立て札などを利用し始めたのです。これが読めなければ損をする社会になっていったのです。この結果、山口県などでは手習い塾や寺子屋が800以上できたといいます。こうして子どもたちが読み書きができるようになっていったのです。
子どもたちの読み書きがさらに進んでいった理由として次のことが考えられます。それは本を読むことによって、それまでに経験したことのなかった新しい世界にめぐり会えたことにあります。世の中には、得か損かだけで判断のできない世界があるということを知ったからです。すなわち、人々は読書を通して生活世界を豊かに出きることを知ったのです。もちろん、生活を豊かにするために読書をするという習慣は遠く奈良時代からあったことです。しかし、それは貴族など一部の人たちの間で行われていたにすぎません。
明治時代になると「学制」が敷かれ、誰でも学校に行けるようになり、多くの人たちが読書する本格的な時代が訪れてきたのです。
(4)読書することの<価値>
要約の<意味>に引き続き今度は<価値>について考えてみます。自分自身にとって、読書することにどんな<価値>があるのでしょうか?
ふつう、読書にはどんな<価値>が与えられているでしょうか。「読書していると楽しい」「読書していると気が休まる」「読書は生きる上で役に立つ」など。これらに共通していることがあります。それは、すべて自分にとって意味があるという共通性なのです。
もう少し突っ込んで考えてみます。書物を読むことの<価値>は次のようにいえます。「読書することによって、自分を変えられる」。具体的にいうと、次の2つの発見が読書によって起こるからです。
ひとつは、自分がいままで知らなかった世界とめぐり会えるという<価値>をもたらしてくれるのです。このことは自分にとってかけがえのない機会の創出を意味するのです。
もうひとつは、いままでの自分とはまったくちがった新しい自分を創り出せるという<価値>をもたらしてくれることです。「えっ、こんなことを考えたり、生き方をしている人がいるなんて」という驚きを得ることができます。この経験によって、自分を変容させ、新しい自分創りに歩み出せることができるのが読書効果なのです。
「新しい世界、新しい自分にめぐり会える」これが読書のおもしろさなのです。
(5)<要約>の意味と価値
<要約>について、もう一歩踏み込んで考えてみましょう。私たちは、本を読みます。映画を見ます。人の話を聞きます。そして、本を読み、映画を見、人の話を聞いたとき何かを感じます。もちろん、時間の無駄であったということもあるでしょう。そうでない場合もあります。言葉にならない感動を得る場合もあります。言葉にならない感動で呆然とする場合も少なくないでしょう。そこではじめて考え始めるのです。単に感想を述べるだけでは何の意味ももたないのではと。個人的な意見を述べる前に、作者が何を考え表現したかったのかを理解する必要があるのです。そのために<要約>が重要な意味をもってきます。<要約>とは、読む人と作者の<対話>にほかならないのです。<要約>によって、読んだ当時には、はっきりしなかったことが鮮やかになります。<要約>の価値はここにあるのです。
私はこのことを「体験の経験化」とよんでいます。「体験」とは時間的なものにすぎません。その場限りのもので過ぎ去ってしまうものを指しています。別の言い方をすれば、自分の外側からやってくるのが体験といえます。その中で、消え去らないものがあります。残るものを基点に自分から向かっていくことを私たちは「経験」とよんでいます。
人間の心が豊かになるのは、この「経験」をどれだけ多く積み重ねているか、どれだけ深く自分の心に刻みつけているのかにかかっています。みなさんも、できるだけ多くの読書を重ね、そして残さずにおかれない、刻みつけずにおられない要約を経験していただきたいと思います。
(6)要約文の書き方
実戦的な書き方を紹介しておきます。まず、要約しておく上でのいくつかの注意事項を書いておきます。
① タイトルの書き方
タイトルは、要約の集大成です。読んで何を感じ取ったのか、その内容をまとめたものでなければなりません。タイトルはよく考えて付けるようにして下さい。タイトルは、対象とした本を読み終わったとき、いちばんはじめてひらめいた言葉、あるいは要約文を書き終わったときにつけるとよいでしょう。
② 文体を統一する
文章表現には2種類あります。ひとつは「~です」、「~ます」で終わる文章で敬体とよばれています。もうひとつは「~である」、「~だ」で終わる文章で常体とよばれています。
どちらで表現せよという指示のない場合は、内容や誰に向かって書くのかによってどちらかに決めて書くようにしましょう。
③ 字数は指示に従う
たいていの場合「200字以内で」という指示が与えられます。その時は、絶対に200字を超えないようにします。200字ちょうどでなくても構いませんが、少なすぎないようにします。この場合、180字~200字で書きましょう。
④書く順序
1)下書きをする
2)目次を作成する
3)下書きを清書する
4)タイトルを決めて、第1行目にタイトルを書く
5)1行あけて学年クラス名を書く
6)自分の名前を書く
7)1行あけて書き始める
章分けしている場合は「第1章 ○○」と書く
8)1行あけて書き始める。はじめの1ますあけて2ます目から書く
9)表紙をつける。表紙には、タイトル、目次、作成者名、完成日などを入れる
(7)要約のレベル
要約の評価基準を4段階(ステップ1~4)で設定してみましょう。そして、その違いを明らかにしてみましょう。
① ステップ1
重要な文章をそのまま抜き出して写したレベル。(6)の約束事が守れない 要約レベルといえます。
② ステップ2
重要な文章をメモあるいは下書きで抜き出して書いたものを統合してまとめられているレベル。要約されている言葉や表現はもとの書物で使われているものをそのまま使っている。
また、要約の流れを自分で組み立てずに、基本的にもとの書物の順を追って要約している。
③ ステップ3
できるだけ本文での言葉や表現とは異なり、別の言葉や表現を使用して自分なりの文にしているレベル。要約者の個性が感じ取れる。
④ ステップ4
本文で使われている人名や地名などの固有名詞しか使わないで自分の言葉で表現できるレベル。このレベルに到達してはじめて要約者が本文の作者あるいは自分自身と巡り会っているといえるでしょう。
要約のイメージをつかめたでしょうか。「要約する」ということは、自分を知り、自分を変えることなのです。
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