○Cross Road 第105回 秋入学の議論の前に 文/吉田 良治
新型コロナウイルス・新型肺炎の感染拡大を受け、国から緊急事態宣言が出されました。教育機関の多くは休校となり生徒は自宅待機を余儀なくされています。多くの生徒は授業が受けれず、学業が停滞するケースが一般的です。オンライン授業を提供する教育機関もありますが、アクセスが集中するとサーバーがダウンしてライブ授業を受講できないケースも出ており、まだまだ機能しているというレベルではありません。自治体によってはウイルス感染者があまり出ていないところでは、徐々に休校を解除されるかもしれませんが、3か月間ほとんど授業が受けれなかったので、来年3月までに後れを取り戻すため土曜日に授業をするほか、夏休みや冬休みをなくすという案もあるようですが、教室にエアコンが設置されていない学校もあるようですので、真夏にエアコンのない教室で授業をすると、熱中症などのリスクも出てきます。
そこで検討が始まったのは秋入学の議論です。元々海外の多くの国では秋が新学期になるので、特に大学などでは日本の学生が留学する、海外から留学生を受け入れる上で、日本の春新学期は不利といわれてきました。数年前東京大学でも真剣に秋入学に移行する検討もされましたが、一大学だけでできることではないので、全国の大学、そして大学進学をする高校生、さらに中学生、小学生と、全ての教育機関が共通して実施されなければ秋入学は実現できません。そのためギャップタームを設けて、半年間準備期間を設けることが必要になるので、半年間のロスをどうするのか、結局そこで秋入学の議論はストップしたままでした。しかし今回は新型コロナウイルス・新型肺炎の影響で、この3か月間授業が止まっている状態、まだウイルス感染のリスクがある中、無理に対面授業を再開するよりも、このまま夏休み終了まで休校を継続して、全ての教育機関が9月から一斉に新学期を迎えるということが、休校期間中の学業の遅れを取り戻すうえで一番いいのではないか、ということが秋入学賛成派の意見です。
ただ、あと3か月自宅待機が継続されると、生徒の生活習慣の乱れが心配です。教室での対面授業があった時は、毎日規則正しく生活できていましたが、この休校期間中で朝寝坊や夜更かしなどが身についてしまった児童も少なくないようです。また、親の虐待も増えています。厚生労働省では全国の児童相談所が今年1~3月で、自宅訪問や児童の一時保護の対応をした児童虐待件数を公表しました。1月は1万4974件(前年同月比22%増)、2月は1万4997件(同11%増)、3月は2万2503件(同12%増)と、昨年から1~2割増加しています。フランスでも新型コロナウイルスの感染拡大で、ロックダウン・都市封鎖により児童虐待やDV件数が3割増えたとの報道もありました。親がテレワークなどで自宅にいる時間が長くなり、親子が長時間・長期間同じ家で過ごすことで、それぞれのストレスがうまく発散できなかった結果ということでしょう。日本で秋入学が実現するとして、このままあと3か月間休校状態が続けば、家庭内での暴力がさらに増加するのかもしれません。
以前阪神タイガースで活躍したマット・マートンからメールが届きました。MLBシカゴ・カブスのフロントの仕事をしているマートンも現在は自宅待機だそうで、妻のステファニーさんと自宅で5人の子どもの家庭教育に取り組まれているそうです。アメリカではホームスクーリングが発展しており、日ごろから自宅で親が子どもの教育をする家庭も少なくありません。以前マートンと対談した際子育てについてこんな発言をしています。“子どもは神からの授かりもの。親の所有物ではない。子どもを立派な大人に育つお手伝いをする、その意識が大事だ!”(つづく)
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