教育の行き先 9月入学の現状況
新型コロナウイルスの影響によって休校が長引き、子どもたちの学習の遅れが深刻化しています。休校期間に失われた学校生活や学習の遅れを取り戻すために、9月始業を訴えた高校生の署名に端を発した9月始業・9月入学の議論は、検討を求める知事らの声明によって加速したように見えましたが、6月5日、文部科学省は、「制度として直ちに導入することは想定していない」として、導入の見送りを正式に表明しました。
9月入学の実施の検討にあたり、文部科学省からは、一斉実施案(2021年9月時点で満6歳になっている全ての子どもを入学させる)と、段階的実施案(2021年度は2014年4月2日~2015年5月1日生まれ、2022年度は2015年5月2日~2016年6月1日生まれの各1年1ヶ月分の子どもを新1年生として入学させ、5年間かけて段階的に移行する)の2案が示されました。今回は、9月入学の議論を進めるなかで出てきた、利点と懸念点について考えてみたいと思います。
9月入学の利点としては、休校による学習の遅れを取り戻すことができる。オンライン教育の実施状況や家庭学習環境などによる教育格差を是正し、入試への不安を緩和することができる。休校による学習の遅れを取り戻すための詰め込み教育がもたらす、子どもへのストレスや不登校などの問題を緩和することができる。時間的な余裕が生まれた事で、部活動や学校行事などの学習以外の時間を確保できる。欧米諸国と卒業・入学時期が統一されるため、留学などがしやすくなり、教育のグローバル化を進めることができる。冬の入試時期が夏にずれることで、インフルエンザ等の感染症や天候による交通障害を回避できる。などが挙げられます。
一方、懸念点としては、来年度入学する児童の増加による教師や教室の確保が難しい。4月就業を見据えて行われている各種試験の実施時期の見直しが必要となる。日本の会計年度が4月~3月であるため、予算の編成や就職時期への影響が出る。就学期間が延びることによる教育費が増え、各家庭の経済的負担が大きくなる。様々な法改正が必要となる。7歳5ヶ月での入学は、世界的に見て類を見ないほど遅い。就職時期が遅れることによって、生涯賃金が減少する。などが挙げられます。
2021年度の9月入学の実施は、教員の人材不足、社会のしくみや法改正の問題、経済的負担など、懸念点も多いことから見送られることとなりました。今回議論が行われた小・中・高の9月入学は、休校等によって失われた学習の遅れを取り戻す方法の1つでしたが、現行通りのスケジュールで、来年3月までの間に今年度中のカリキュラムを終えるために、夏休みなどの長期休暇の短縮・土曜授業や7時間授業の実施などが、すでに各教育委員会から発表されています。
この世代の子どもたちが、新型コロナウイルスの影響による犠牲者とならないよう、文部科学省には、学習内容の圧縮や第2波、第3波に備えたオンライン教育の整備なども含め、しっかりとした方針を示してもらいたいと思います。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本の教育現場におけるICTの活用やオンラインの普及の遅れが露呈しました。時代の流れは一昔前よりも格段に速まり、目先の経済負担や法整備の困難さから、議論や実施を先送りにしてきたこれまでのスタイルは、もはや通用しません。日本教育のグローバル化を進めるためにも、9月入学について前向きな議論が行われることを切に願います。(文/学林舎編集部)
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