○Cross Road 第106回 アスリートの選択 文/吉田 良治
昨年ラグビーワールドカップで活躍され、今年東京オリンピック7人制ラグビー日本代表を目指していた福岡堅樹選手が、新型コロナウイルス・新型肺炎の影響で、来年に延期となった東京オリンピック7人制ラグビー日本代表から引退することを表明しました。東京オリンピック後、医師を目指すことを決めていたため、1年延期となった今ラグビーではなく医師を選択することになりました。日本人アスリートにとって珍しいこの選択は、国民から驚きをもって受け止められました。競技にもよりますがアスリートにとって活躍できる期間はそう長くありません。1年の差は時に大きくなることもあり、様々な選択が迫られます。
近年アメリカの大学へ進学する日本の若手アスリート(サニブラウン、八村塁、渡辺雄太選手など)が増えています。アメリカの大学でスポーツをする日本人学生にも大きな選択を迫られるケースがありました。以前私がフットボールチームでアシスタントコーチをしたワシントン大学では、女子テニスチームに日本人の荒川夏帆選手が在籍しています。荒川選手は現在4年生ですが、アメリカの大学スポーツは冬と春スポーツが新型コロナウイルス・新型肺炎の影響で中止となり、春スポーツのテニスをする荒川選手も、最終年の活動が途中でなくなってしまいました。アメリカの大学は春、秋、冬と3つのシーズンで構成され、テニスは春スポーツという位置づけになります。フットボールやサッカーなど秋スポーツが始まる9月まで、あらゆるスポーツ活動が中止となりました。大学もオンライン授業となっているため、荒川選手は現在日本に戻りネット経由で春学期の授業を受けてきました。4年生ということで卒業も選択肢にありましたが、NCAAがもう一年出場資格を認めたため、荒川選手は来シーズンもワシントン大学女子テニスチームに参加する選択をしました。
ワシントン大学の女子テニスチームは学業が優秀で、冬学期チームP.P.Aは3.48、荒川選手はG.P.A3.58(春学期)でリーグから学業表彰を受けました。アメリカの大学スポーツは学業優先で、G.P.A2.0以上ないとスポーツ活動に参加できません。ワシントン大学は世界最先端の大学で、世界から高い評価(イギリス・タイムズ誌世界大学ランキング26位)を受けています。このレベルで学業優先でスポーツでも活躍できるのは、並外れた努力が必要です。アメリカでは大学でスポーツをする学生を“Student-Athlete”と呼び、国民から尊敬を受ける存在です。荒川選手は“I still have so much to learn as a student-athlete.”と、この“Student-Athlete”の意味を自覚して活動をしています。アスリートの前に学生としてどうあるべきか、コートの中だけでなくコートを出た後の学びが人間的な成長に直結していきます。もう1年大学で学生として、そしてアスリートとして、人間的な成長できる機会を選択したことになります。妹の荒川晴菜選手はすでにプロテニスプレーヤーとして活躍しています。いずれ妹と同じ道を選択するのかもしれませんが、大学での“Extra Year”が人間の土台作りにつながっていき、アスリートとしての幅を広げていきます。
今月NCAAはウェイトトレーニングやけがの治療など、自主的なスポーツ活動を認め、ワシントン大学は6月15日から秋スポーツを中心に一部のスポーツで活動が再開されました。まだ個人レベルの自主練ですし、PCRや抗体検査などが義務付けられ、様々な規制がある中、少しずつスポーツ活動が再開されています。荒川選手も夏以降渡米することになるでしょう。まだまだ不透明な状況ですが、彼女のワシントン大学に戻る選択が、人生の素晴らしい1ページとなること願っています。Good Luck!! (つづく)
学生アスリート教育プログラム 紹介動画(追手門学院大学) 吉田良治さん指導
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