次年度以降への授業繰り越し
2019年12月に中国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生が報告されて以来、世界各地で感染者が確認され、2020年1月31日には世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると発表しました。日本では、2020年2月27日、政府が全国の小学校・中学校・高校に臨時休校を要請し、4月16日には、全都道府県に対し、緊急事態宣言を発令しました。国民の多くが不要不急の外出を控え、子どもたちは家庭での学習を余儀なくされました。その後、緊急事態宣言が解除され、徐々に学校は再開されましたが、感染拡大防止のため、短縮授業や分散登校などの措置が各学校でとられてきました。これらの措置により多くの学校で授業時間が不足しているとの報告があがっています。コロナ禍で発生した子どもたちの学習の遅れに対して、文部科学省はどのような対応を行っているのでしょうか。
文部科学省は、授業の遅れをとり戻すためにさまざまな取り組みを行ってもなお、本年度指導を計画している内容について、学年内に指導を終えることが困難な場合の特例的な対応として、次年度以降への授業の繰り越しを認めると発表しました。但し、最終学年(中学校では3年生、小学校では6年生)においては、繰り越すことが難しいため、最優先で授業時間を確保し、年度内に学習を終えるよう求めています。最終学年に次ぐ学年(中学校では2年生、小学校では5年生)は令和3年度を含めた2年間、それ以外の学年は令和3年度・令和4年度を含めた3年間を見通した授業の繰り越しを認めることが発表されています。
次年度繰り越しには、「さまざまな取り組みを行ってもなお、」という条件がついています。さまざまな取り組みには、次のような内容があげられています。
①時間割編成の工夫:1コマの授業時間を40分や45分に短縮することで1日当たりの授業コマ数を増やすなどの工夫をする。
②夏休みや冬休みなどの長期休みの期間を短縮して授業を実施する。
③土曜日の午前中に授業を実施する。
④学校行事の重点化をはかる:運動会や文化祭、修学旅行などの行事において、準備時間の短縮や規模の縮小をはかる。
⑤学習の重点化をはかる:学校の授業でどの内容を優先的に学習するかをはかり、学校以外でできる学習は、ICTなどを活用して家庭で行うなどの工夫をする。
例えば、中学校の数学の授業では、連立方程式の解き方の授業は学校で行い、練習問題を解く演習は家庭で行う。また、国語であれば、物語の感想を述べあう学習は授業内で行うが、感想をノートに書いたり、漢字の練習をしたりする学習は、家庭などの学校外で行うなど。
以上のような取り組みを行ったうえでなお、年度内に決められた学習内容が終了しなければ、特例的に次年度への繰り越しを認めるということです。しかし、①~⑤の取り組みを行うと、授業は駆け足で行わざるを得ません。従来の授業であれば、学習の習得に支障がなかった子どもでも、スピードをあげた授業にはついていけない子どもも出てくることでしょう。また、演習時間を家庭学習に移行することは、家庭間の意識の差が、そのまま子どもの学力の差につながっていきかねません。ICTの活用が唱えられていますが、ICTの環境も家庭によって大きな差があるため、子どもの学力の差につながっていくことが懸念されます。文部科学省が、次年度以降への授業の繰り越しを認めていることを充分に認識し、子どもたちの学習が駆け足で行われたり、置き去りにされる子どもが出たりすることのないように、保護者や地域でも見守っていく必要があります。
しかし、次年度、次々年度と繰り越していった学習はどれくらいで吸収できるのか、どのような影響をおよぼすのかわかっていません。
コロナ禍という未曽有の壁の前で、文部科学省も自治体も学校も家庭も試行錯誤の状況が続いていますが、子どもたちの学習の歩みを止めないよう、子どもたちの学習を保障できるよう努めていくことが肝要です。(文/学林舎編集部)
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