○Cross Road 109回 イギリス・タイムズ誌の世界大学ランキング2021 文/吉田 良治
今月イギリス・タイムズ誌が今年の世界大学ランキングを発表しました。多少の順位の変動があっても、ベスト10の顔触れはほぼ毎年同じで、1位のイギリスのオックスフォード大学は5年連続で首位をキープしました。今年のランキングで特に注目すべきは、アジアで初めてトップ20位に入った中国の精華大学です。以前は東京大学やシンガポール国立大学がチャレンジしては跳ね返されてきた高い壁(トップ20)でしたが、ようやくアジアの大学がその壁を突破しました。東京大学は2014年、2015年と2年連続で23位まで上がりましたが、2016年に43位に下がって以降、中々順位が上がらない状態でした。現在東京大学は36位と、一時期40位台に低迷したころから回復気味ですが、この数年停滞している間に他のアジアの大学が躍進し、TOP20位初のアジアの大学は中国の精華大学となりました。
2013年に安倍首相が、“今後10年で世界大学ランキングトップ100に10校ランクインさせる”と宣言して以降、安倍首相の思いとは裏腹に東京大学をはじめ日本の大学は、世界大学ランキングで順位を下げ続けてきました。“このようなランキングは英語圏の大学が有利だから”、“欧米に偏ったこのようなランキングは意味がない、”と批判をする方もおられますが、日本では大学の価値を受験生の偏差値の指数で評価する、受験の難易度でイメージするしか思い浮かばないのかもしれません。しかし、日本以外のアジアの大学は総合的な大学力を高め、順調に順位を上げています。日本だから仕方がない、という逃げの言い訳は通じません。
大学の価値は単に受験時の学力という教育力だけでなく、教員・研究者の研究論文の引用や研究実績といった研究機関としての役割、そして大学の国際化としての指数、さらに大学運営で必要な軍資金の調達など多岐にわたって評価されます。
大学生の学力に目を転じると、TOP10の常連大学、例えば今年2位になったスタンフォード大学や3位のハーバード大学などでは、大学生が単位を取るために電話帳のような分厚い専門書を年間400~500冊も読破する必要がある、といわれています。一方日本の大学生は“一日に本を読む時間が0時間”が5割程度いるといわれています。本を読まないでも単位が取れる日本の大学と、大学生が多くの書物・文献と向き合い格闘しているアメリカの大学とでは、大学の教育力・大学生の学力という質と差が歴然としているのです。
大学生の卒業後の価値に目を向けると、アメリカの大学生はコロナ禍でもインターンシップで卒業後のキャリア固めをしています。アマゾンやFacebookなどで高額な月収(月7,000~8,000ドル)でインターンシップを経験しています。大学卒業後初年度年俸10万ドルも当たり前の世界で、キャリアを積んでいく準備のインターンシップでも、日本では破格といえる額です。
アメリカでは日本のような新卒一括採用はありません。野球を知らない素人をドラフトで指名し、給料を支払い一から野球を教えるプロ野球チームがないように、アメリカの企業は新しい人材を必要とする部門が、その時即戦力で仕事ができるものを雇用するのです。大学新卒でも入社したらその日から、バッターボックス(それぞれの職場)に入って結果が求められます。単なる職能力だけでなく総合的な人間力を育んで、大学生を鍛え上げて社会に送り出す大学はまだ日本に見当たりません。
少子化で受験生確保で苦戦し大学運営が厳しい中、世界的にはまだまだ人口は増え続けます。国内事情だけで大学運営を考えると、この先、先細りしていくしかありません。グローバルな視点で物事を見て、国際競争力・大学力を高めていかないと、日本の大学はどんどんその価値を失っていきます。総合的な人間力が求められる大学生、同様に大学も総合的な大学力を育む必要があります。(つづく)
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