2020.10.16

中止になった 全国学力テストから

中止になった 全国学力テストから

 

 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)は、2007年度より毎年、全国の小学6年生と中学3年生全員を対象に実施されています。文部科学省が提示する全国学力テストの実施目的は、以下の3点です。

1 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国の児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。

2 学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。

3 そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。

 

中止になった 全国学力テストから

 2020年度の実施は、コロナ禍の影響によって中止となりましたが、この機に、全国学力テストの見直しなどが議論されています。全国学力テストには、全国の児童生徒の学習状況を国が調査し、「教育政策に生かすための基礎資料にする」側面と、「個々の学校の指導に役立てる」という側面があります。今回は、「個々の学校の指導に役立てる」という側面に着目します。
 全国学力テストは、該当学年の児童生徒が全員受検することから、一人一人の生徒の弱点を読みとることが可能だとされていました。しかし、実際には、限られた時間で行うテストでは、多岐にわたる範囲の一部しか出題することができないため、一部の領域のみの調査となってしまい、児童生徒の学力の全体像をはかることはできません。また、年によって出題内容が異なり、さらに児童生徒の学力の経年変化をはかるものでもないため、複数年を比較することができません。したがって、個々の学校の指導に役立てるのは難しいのではないかという議論がなされています。
 また、従来全国学力テストは、「主に知識」を問うA問題と「主に活用」を問うB問題に分けて出題していましたが、2019年度からは、A問題とB問題が一体的に問われるようになりました。従来のテストにおいては、A問題よりもB問題の正答率が低いという問題点がありましたが、新学習指導要領には、この問題点を克服するために、思考力や判断力、表現力を身につけることが盛り込まれています。
 このような自分で考え、判断し、表現する力は、知識偏重の授業では身に付きません。対話型の授業を行って、自分の考えをまとめて発言したり、相手の考えを聞いて自分の考えとの共通点や相違点を考えたりする時間をつくることが必要です。また、記述力を上げるには、読書の時間や文章を書く練習をする時間が必要です。したがって、現段階では、全国学力テストで確かめようとしている力を身につけられるには至っていないと考えられます。

 

中止になった 全国学力テストから

 これらのことから、現状の全国学力テストは、現代社会において本当に必要な学力を確かめ、教育施策に生かすための基礎資料となるような調査にはなっていないのではないでしょうか。
 全国学力テストは、今後、CBT(コンピュータで実施される調査)に移行することが検討されており、ICTの導入、全国への普及といった課題もあります。現状の全国学力テストは課題が多いという議論があることからも、今後の全国学力テストがどうあるべきかを考えていくべきです。(文/学林舎編集部)