考える力-現場から見えてくるもの
私たちは子どもたちについ「自分で考えなさい。」というとき、何を期待していっているのか、また子どもたちは何を考えようとしているのか。
このことを明らかにすることによって私たち自身がもう一度「考えるとは何か」を捉えなおす必要があるのではないだろうか。
私たちは、子どもたちに「自分で考えなさい。」といったとき、私たちの頭の中には「答えの出し方」がすでに頭に浮かび、子どもたちがそれに沿って正解を出してくるのを期待しているのである。だとすると「考えること」というのは実は「答えを出すこと」にほかならないのではないだろうか。
このとき子どもたちの頭の中ではどんなことが起こっているのだろうか。子どもたちは「自分で考えなさい」と言われたとき、まず前にこの問題をやったことがあるかどうか思い出そうとするに違いない。考えることすなわち答えをだすことであるのだから、答えの出し方を思い出せなければ、考えたふりして「わからない、ヒントちょうだい。」という以外なすすべがない。私たちは私たちで答えの出し方のヒントを連想ゲームのように与えるのである。
すでに気がつかれたように、私たちも子どもたちも「すでにわかっている答えを出すこと」に向かってただひたすら勉強するという思い込みの世界にはまりこんでいるのである。この思い込みの世界の中では、新たに自分が生成する知恵が生まれてきようがない。私たちはいったんこの「正解を出さねばならない」という強迫観念のような学習から解放されない限り、子どもたちの考える力を引き出すことはできない。そして、それは同時に子どもの自らの内からわき起こってくる学ぶ力そのものの芽生えを生み出すことでもあるのだ。
私たちが大人になってはじめてわかることではあるが、本来の考える力というのは、今まで「学んだこと」を思い出すことではなく、未知なる状況におかれたときに、「学んでいく力」にあるのである。今自分のおかれている状況を分析し、今までの自分の持てる知識を総動員し、新たにこの未知なる状況にあった新しい知識を自ら生み出すこと、これが学んでいく力=考える力そのものではないだろうか。そのためには、その原動力になる基本的な知恵袋を背中にさげておく必要がある。この知恵袋の中に何を入れておくのか。この中味が、学んでいく力を支える「基礎学力」ともいうべきものである。誤解されないようにいっておくがこの「基礎学力」もまたいわゆる固定した知識でとらえるのではなく、常に状況に応じて新たに生成されていかなくては、かんじんなときに古くて役立つ知恵袋とならないのである。
こう考えるとこの基礎学力自身も知識というよりこの名のとおり知恵といった方がよいだろう。たとえば、わけのわからぬ難しい言葉を自分なりに分かりやすい言葉にすることができる力とか、つねに問題が起こると自分はいったい何がわかって何がわからないかを分析する力とかいうものである。このような知恵こそが、これからの子どもたちに基礎学力として必要とされるのである。
小学に行く前から低学年の間にこそ「正解を出す」呪縛から離れて、学んでいく力をつけられるチャンスであることを、そしてこの子たち自身によって社会がよりよい世界に変革されていくことを私たち大人は期待しているのではなかったのだろうか。(文/学林舎 北岡)
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