なぜ今、表現力なのか-求められる学力
自分の言葉で何かを書くという行為を促すものには、二つの要因があります。一つは自分の中に他者に伝えたいことがあることであり、もう一つは、自分自身に問うことです。前者は、関係概念の中で生きている自己存在の主張であり、後者は自己対象化および自己の指示性の作業として考えられます。これらは相互に止揚する自己形成過程そのものでもああります。
しかし、「ちょっとまった。そんな大上段に構えるのではなく、テストにでる課題作文を書く技術論を」といわれる方もいるかもしれません。確かに、様々な課題パターンをあげて、書く内容そのものも含めて書き方を覚えれば一応形にはなるという入試用の作文習得法などもとりあげられていますが、これから求められる学力は覚えた形に当てはめてアウトプットする表現力ではなく、自ら考えて、自分の言葉で表現する力なのです。文部科学省が示した新学習指導要領は、根源的なところから方法論を見直そうとしているのです。重要なのは、なぜ今になって表現力が問われるのかです。小学生の国語表現といえば作文や日記と考えられてきまし。しかも、せいぜい感想文を書くぐらいのもので、日常的な学習の中で文章を書くということに本格的に取り組むことなどありませんでした。国語といえば、ほとんどが漢字と読解です。その上、漢字は学年枠に制約された暗記学習の典型でもあります。読解もまた作品から切り離されたテスト用の設問解読でしかないのが現状でした。一方、作文教室というのがあるにはあるが、ほとんどが、受験用の課題作文の添削か感想文の添削にとどまっていました。これ自体を否定するものではありませんが、教えるものの姿勢の中にテスト対策としての唯一の解答を要求する指向性が子どもたちに反映し、学習=解答の正否が子どもたちの読むこと、書くことのすべてになっていました。この時点で子どもたちは本来の経験的な学びから遠のいてしまったといえるのではないでしょうか。
こんな状況の中で、表現力(記述力)を求める評価(テストなど)が求められたのです。求められたことによって、学習現場において「表現力」をどう子どもたちに学習させるのか、どう既存の学習と一緒に身につけていくのかが大きな課題となっております。
日本の経済構造が、すでに第一次産業、第二次産業は海外にゆだねられ、いまや第三次産業、第四次産業(IT産業、特許など)といわれる分野に移行しています。つまり、日本の経済構造を支えるのは、知的生産そのものなのです。(知的生産といわれるものは、研究開発による様々な権利、情報システムの向上と研究、さらには地球環境を改善する様々な研究や企画など新たな発見や技術、開発企画というようなもの)この知的生産はかっての個人の研究や能力にゆだねられるだけでなく、組織的、つまり国家的、企業的な規模で、国際的な視野での研究開発を要請されています。つまり、プロジェクトを動かすリーダーの育成が迫られているのです。企業においては科学に限らずあらゆる分野における研究開発が無数のプロジェクトを形成しながら企業の拡大を進行させています。
中高一貫学校の検査テストあるいは全国一斉学力テスト(算・数・国)などの内容を見ると、今までのような知識を問う問題などは、もちろんのこと表現力を問う問題が中心となっています。グラフ・図・文章などを条件として、その条件を分析する論理的な説明文の要求や、基礎的な知識を使って、問題解決を図ることができるかどうかなどが判定されます。感想文を書けというような恣意性に依拠するような問いはほとんどないといえます。さらに、中高一貫学校のほとんどが、共同作業による課題への取り組みやグループセッションなどが検査テストに加わっています。リーダーに必要なものは、コミュニケーション力であり、問題解決力であると考えられているためです。
自己形成を伴う表現力の育成こそ求められるのです。(文/学林舎 北岡)
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