○Cross Road 116回 松山英樹のマスターズ制覇と 早藤将太の美徳 文/吉田 良治
プロゴルファーの松山英樹が今月日本人初の4大メジャータイトル獲得、そしてアジア人初のマスターズ優勝を成し遂げました。日本人がマスターズに挑み続けて85年、悲願のグリーンジャケットに日本人ゴルファーが袖を通しました。
マスターズが開催されるオーガスタナショナルゴルフクラブは、パトロンと言われる熱烈な支援者が有名で、松山英樹が優勝を決めた18番ホールを終えた後、パトロンがスタンディングオベーションで偉業を称えました。松山英樹の偉業と同じくらい話題になったのは、キャディを務めた早藤将太が18番ホールを去る際、最後に一礼をしてグリーンを後にしたことでした。日本の“礼に始まり礼に終わる”という美徳を象徴するシーンでした。
スポーツには人に感動を与える、という良さがあります。今回の松山英樹のマスターズ制覇で日本人はもちろん、アメリカ国民にも少なからず良い影響がもたらされるでしょう。しかし、最も重要なことはフィールドの上でのパフォーマンスだけで人に感動を与えるだけでなく、フィールド(スポーツ)を離れたときに、社会の一員としてどうあるべきか、どう立ち振る舞うのか、そこが大変重要になります。
アメリカでは今、アジア系へのヘイト問題が広がっている中、松山英樹のマスターズ制覇と早藤将太の美徳は、アメリカの象徴的な舞台で成し遂げたことに大きな意義があると感じます。これで少しでもアジア系へのヘイト問題が改善されることを願います。
昨年の今頃は警察官によるアフリカ系アメリカ人殺害事件が発生し、全米でアフリカ系アメリカ人の人権を改善する動き“Black Lives Matter”が広がり、全米各地で暴動が発生するなど、大統領選の投票コードにも影響しました。
オーガスタナショナルゴルフコースのあるアトランタ州は、南部の保守的な地域で大統領選挙でも共和党の牙城として知られています。ジョージア州アトランタ市は南北戦争で南軍の最後の拠点となり、アフリカ系アメリカ人への根深い差別の歴史が刻まれてきました。
アトランタ市にあるジョージア工科大学の学生は、昨年全米で広がる“Black Lives Matter”暴動を見て、自分たちがすべきは暴動ではなく、選挙で正しい政治家を選ぶことだ!と、大学に投票所を開設し、大学生だけで投票所を運営する全米初の大学となりました。ジョージア工科大学の学生アスリートは全米の学生アスリートに呼び掛け、46万人の学生アスリートが大統領選挙の投票登録をし、投票日の11月3日は全米の全ての大学 スポーツ活動を停止して、大統領選挙で投票をしていきました。このムーブメントはジョージア州をはじめ共和党有利と予想された多くの州で、民主党躍進の原動力となりました。
日本のスポーツ界では暴力やパワハラ問題が根深くあります。一般社会でもコロナ禍で様々な制約を受けた生活が続き、DVや様々なハラスメント、そして外国人への差別といった人権問題も少なくありません。今年予定されている東京五輪・パラリンピックは開催が危ぶまれていますが、オリンピックの理念の根幹、そしてスポーツの大前提のスポーツマンシップの重要な要素“Respect・尊敬”は、今回のマスターズの早藤将太の一礼のように、日々の生活の習慣で身につく美徳で、スポーツのフィールド上の暴力やパワハラ問題だけでなく、一般社会の中でも人権問題を改善するうえで大変重要です。
オーガスタナショナルゴルフコースの設計に携わり、アマチュアゴルファーでありながら全米オープン4度、全英オープン3度制した、ジョージア工科大学の卒業生ボビー・ジョーンズはフェアプレーで有名です。全米ゴルフ協会は彼の功績を称え、協会のスポーツマンシップ賞に“Bobby Jones Award”を設けています。競技力だけに注目するのではなく、スポーツマンシップを身につけた総合的な人間力が求められます。 (つづく)
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