求められる算数・数学的な「思考力・表現力」
「習得した知識・技能を使って考える力や考えたことを表現する力が十分ではない。」「見つけ出した情報相互の関連性を理解して解釈したり、自らの知識や経験と結びつけたりすることが苦手である。」といった課題が学習現場にはあります。現在の学習現場においては「思考・判断・表現」といった学力育成を各教科にもとめています。
知識や技能を得ることだけではなく、それらを活用し問題を解決する力、つまり、問題に対し「自ら考える力」「適切かどうかを判断する力」「自らの考えを表現する力」を育むことを重要視しているといえます。
教科の中で算数・数学について「思考・判断・表現」の観点は、「数学的な見方・考え方」にあたります。例えば、中学数学の数学的な見方や考え方の趣旨は、「事象を数学的にとらえて論理的に考察し表現したり、その過程を振り返って考えを深めたりするなど、数学的な見方や考え方を身に付けている。」とされており、問題解決の結果だけではなく、結果を出した過程を含めて評価することが重要視されています。
言葉だけではなく、数学的な表現、すなわち、数、式、図、表、グラフなどを用いて、論理的に考察し表現したり、その過程を振り返って考えを深めたりする学習活動の充実が求められています。
「思考力・表現力」が重要視されるようになり、算数・数学の出題内容にどのような変化があるか、公立高校の入試問題を例にとって考えてみます。
まず、日常の場面からの出題が目立つようになりました。例えば、2 つの電化製品の燃費を比較する問題や、出し物の発表時間からイベントのスケジュールを考える問題、アンケートの集計結果やゲームの得点を使った問題などが出題されています。また、設定が複雑で、設問文が長い問題も増加傾向にあり、会話文から情報を読み取らせる問題や、複数の表を見比べる問題、複雑なルールを定めたゲームの結果を考える問題などが出題されています。これらの問題では、「事象を数学的にとらえる力」や「問題の解決のために論理的に考察する力」が必要になります。
その他にも、問題の答えだけではなく、解く過程や自分の考えを記述させる問題も見られます。過程を記述させる問題は、これまでも一部の入試問題では出題されていましたが、近年では、連立方程式の解き方や立体の体積や辺の長さの求め方、関数の直線の式の求め方など、記述させる内容が多岐にわたっており、記述内容についても、分量が多く、自由度の高い問題が増えている傾向にあります。また、自分の考えを書かせる問題では、資料の活用の単元からの出題が多くなっています。例えば、岩手県入試では、2人の陸上部員の記録をまとめた度数分布表を見て、どちらの部員を選手として選ぶか、理由も合わせて記述するという出題がありました。この問題では、どちらの選手を選んだとしても、正当な理由が書けていれば正答となります。これらの問題では、「問題解決のために論理的に考察する力」はもちろん、「考えた過程を表現する力」が必要になります。このような出題の傾向は、今後も続いていくと予想されます。
「算数、数学は社会に出てから必要ではないのに、なぜ学校で勉強するのか。」というのは、多くの子どもが抱く疑問のひとつです。でしょうし、確かに、実生活で「三角形の合同を証明せよ。」と言われる機会はありません。しかし、数学を通して育んだ「思考力・表現力」を使う機会は決して少なくないように思います。今、求められる算数・数学力とは、そういった「算数・数学で育んだ力を実生活に応用する力」のことなのです。(文/学林舎 北岡)
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