○Cross Road 119回 人種問題を乗り越えて 文/吉田 良治
アメリカ合衆国の歴史は人種問題と共に歩んできた歴史といえます。元々アメリカ大陸には先住民族、日本ではよくインディアンという呼び方が一般的ですが、アメリカでは人種問題に配慮して“ ネイティブアメリカン ”と呼ぶことが推奨されています。アラスカなどアメリカ大陸北部に住むエスキモーも所謂差別用語とされ、“ イヌイット ”と呼ばれることが推奨されます。
アメリカの発展にはアフリカ大陸より奴隷として連れてこられた、日本で黒人と呼ばれる人たちも、“ アフリカ系アメリカ人 ”と呼ぶ方がスマートな呼び方となります。アフリカ系アメリカ人の奴隷制度も廃止するかどうかで南北戦争に発展し、奴隷制度廃止を拒否した南軍が敗れ、事実上奴隷制度に終止符が打たれましたが、その後もアフリカ系アメリカ人への差別は長く維持されました。1960 年のローマオリンピックでボクシングライトヘビー級を制したカシアス・クレイ(後のモハメド・アリ)は、金メダルを胸にかけアフリカ系アメリカ人への差別を掲げるレストランへ入店しようとして、入店拒否にあいました。オリンピックで金メダルを獲得してもこの国はアフリカ系アメリカ人への差別を辞めようとしない、と落胆し金メダルを川ヘ捨てたという逸話もあります。最近ではヨーロッパ系アメリカ人の警官による、アフリカ系アメリカ人の殺害事件が多発し、全米各地で猛烈な抗議活動や暴動が発生していました。アフリカ系アメリカ人の人種問題が発生すると、スポーツ界はもちろん、エンターテーメント業界、そして IT 業界などが人種問題への抗議活動を展開するなど、国民に影響力のある人たちが人種問題改善へ活動を展開していきます。
そして昨年のコロナ禍でウイルスの発生源と指摘された中国には、トランプ大統領が“ チャイナウイルス ”と中国への批判を込めた発信により、全米中でアジア系へのヘイト問題に発展していきました。太平洋戦争では敵国であり、戦後長く日本人は“ ジャップ ”とさげすまれた歴史もありました。一方、今年はアメリカのスポーツ界で日本人の活躍が続いています。プロゴルファーの松山英樹がアジア人初のマスターズ制覇を達成、メジャーリーグでは大谷翔平が二刀流で全米に衝撃を与え、現在ホームラン争いの主役となっています。
大坂ナオミは全豪オープンテニスを制するなど、それぞれの立場でスポーツマンシップにあふれた日本の良さを示しています。
過去にも全米はもちろん、世界中に大きな影響を与えたアジア人がいました。映画俳優で映画プロデューサー、格闘家、アスリート、メンター、そして哲学者のブルース・リーです。32 歳という若くしてこの世を去りましたが、名作“ 燃えよドラゴン ”をはじめ数々の名作で主演を務めました。映画で発した名言の多くは、ブルース・リー哲学がちりばめられています。その原点は私が以前フットボールチームでアシスタントコーチをしたワシントン大学で学んだ哲学にありました。没後 48 年を経っても未だシアトルにある彼の墓石に花が絶えることはありません。今も人種や世代、そして時代を超えてブルース・リーは絶大な影響力を放ち続けています。(つづく)
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